ピラティスは、姿勢改善や腰痛改善、体幹トレーニングとして注目されることが多いですが、実はヨガと同様にストレスの解消にも効果を持つエクササイズです。ピラティスが精神の安定に働きかける理由を、3つの点から紹介します。
呼吸法
ピラティスは呼吸を重視するエクササイズです。すべての動きは呼吸とともに行います。
ピラティスの呼吸は一般的に胸式呼吸です。胸式呼吸は頭や身体を活性化させる効果があるといわれ、ピラティスをしたあとに頭がすっきりとした爽快感や、充実感、活力に満ち溢れる感覚をもつのはそのためと考えられます。
また、深い呼吸を行うことで身体の調整機能である「自律神経」の働きを正常化させる効果があります。自律神経には「交感神経」と「副交換神経」という相反する働きをする2つがあります。この2つは自動的にバランスをとっているので、私たちは普段意識をしなくても呼吸をしたり、汗をかいて体温調節したりできていますが、ストレス下ではその働きが乱れ、結果として心身の不調につながってゆきます。自律神経を意識的にコントロールすることは難しいですが、呼吸をコントロールすることにより、自律神経の安定に働きかけることができるのです。
身体への集中
ピラティスのレッスン中、インストラクターは、深部の筋肉や骨に意識を向けて動くよう要求してきます。そのために今まで行ったことのない自分の身体や、身体の内部への意識を持つことになります。これは、実は「マインドフルネス瞑想」とも呼ばれるものです。マインドフルネスとは、「今、この瞬間を大切に生きる」ことを指し、ストレスの低減法としても科学的に検証・証明されています。
人は、大体の時間を過去や未来に思いを巡らせて生きています。「今、ここ」に意識を向けること、そしてあらゆる物事に対し良い・悪いなど判断せず、ありのままに受け入れる練習をすることで、心の安定や集中力の向上など、様々な効果が得られると言われています。
マインドフルネスの実践には瞑想やボディスキャンなどいくつかの方法がありますが、ピラティスのエクササイズ中は自然とマインドフルな状態がつくられるのです。
心身全体のバランスが整う
私たちの脳には、身体を守るための機能が備わっています。ですが、その機能はストレスの影響を受けると乱れを起こします。心のストレスが身体の不調として現れるのは自然なことだと考えられますし、反対に、イライラの多くは身体の不調を表していると言っても過言ではありません。
ピラティスは全身のすべての筋肉を使っていくエクササイズです。それは他の多くのスポーツ、身体の一部を特に使ったり、鍛えたりするものとの違いと言える部分でしょう。ピラティスでは、深層の筋肉や小さな骨の動きまでに意識を向けるため、その部位を動かそうとする脳も同時に鍛えられていきます。今まで眠っていた細胞を目覚めさせることにより、脳の新しい領域を活性化させるのです。このように、ピラティスは脳を正常化させ、人間が本来持つエネルギー(免疫力や抵抗力など)を引き出すとともに、見た目にも、自然な姿、前後左右のバランスが取れた姿に戻してくれます。
以上のように、ピラティスは、活力を生み出し、マインドフルな状態をつくり、心と体と脳を調和させていくことから、ストレスの対処法としても優れたエクササイズであると言えます。これは単に「ストレスを解消する」のではありません。ストレスと向き合い、受け入れ、付き合っていける心身をつくることでもあります。
そもそも、ストレスという言葉の範囲はとても広いものです。スタンフォード大学の心理学者ケリー・マクゴニカル氏は「ストレスとは、自分にとって大切なものが脅かされたときに生じるものである」と定義し、「ストレスと意義とは密接な関係にある」「どうでもいいことに関しては、ストレスは感じませんし、有意義な人生を送りたいと思ったら、ある程度のストレスは付きものです。」と著書『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』に記しています。つまり、ストレスは、良い面を見出すことで人生をより豊かにするエネルギーに変えることもできるのです。
無理にポジティブになる必要はなく、また一概にストレスを悪いものと決めつけるのでもなく、良書や、ピラティス・ヨガのようなマインドボディエクササイズ(心と体のつながりに着目した運動)を取り入れることで、ストレスを味方にしていきましょう。
参考:『スタンフォードのストレスを力に変える教科書』 - ケリー・マクゴニガル『コントロロジー―ピラティス・メソッドの原点』 - Jジョセフ・ヒューベルトゥス ピラティス